コラム

新入社員に大切なことの「伝え方」                               

2020年11月30日

昨今の若手人材に関する研究から、若手人材の傾向が明らかにされてきていますが、弊社が研修を通じて得られる実感は以下の通りです。

・真面目でおとなしい

・仲間はずれにならないように気を使っている

・意味がない(わからない)ことはしたくない

そんな新入社員に、社会人として仕事をする上で大切なことを伝えたい場合、上から目線で教えると残念ながら受け入れてくれません。「真面目でおとなしい」ので受け入れた素振りは見せますが、納得はしていないのです。一方的に「意味」を説明しても、育成する側と新入社員の「経験の差」が「前提の差」になってしまい、やはり上から目線に聞こえてしまうようです。新入社員は育成する側が「常識」と思っていることをあまり知らないのが現実です。

ではいったい、社会人として大切なことを伝えるにはどうしたらいいのでしょうか。

実は、新入社員は「教えてほしい」のです。自分がわからないこと、できないことはなくしたいのです。自分だけが仲間はずれになりたくないからです。ただ、自分が分かるように、できるように説明してほしいのです。ある意味「依存」とも「甘え」とも言えます。だからといって、突き放しても何の解決にもなりません。問題は「伝え方」であって、大切なことが伝わればいいわけです。

そのためには、まず、伝えたい大切なことに関して、「仲間」同士で話し合う機会をつくります。その話し合いの中で、自分以外の仲間がどんな考え方をしているのかを知ってもらいます。「おとなしい」ですが「真面目」ですから、仲間同士では自分の意見も言いますし、仲間の意見には真摯に耳を傾けます。そのやり取りを聞きながら、教える側が正しい方向に導いていくことです。そうすると、昨今の新入社員にも大切なことが響きます。

ただし、時々、仲間同士のやりとりが好ましくない方向に進むことがあります。その時は教える側が方向修正を促さなくてはなりません。ですから、教える側にはそれなりの力量が必要です。ファシリテーション力とコンサルティング力は必須になります。

以上は、新入社員研修の場でのことですが、このことは、職場での新入社員の指導育成にも通じることがあります。上司が部下に対して指揮命令をするとき、合意形成を図ることが必要です(状況によっては一方的に命令する場合もあると思いますが)。納得して仕事をしてもらった方がより高い成果が期待できるからです。

全く同様に、新入社員の場合は、何も知らないことを前提に、相手の目線になって、指揮命令(指導育成)することです。指揮命令の内容は上司が決めたことでいいわけですから、決して上司が新入社員に遠慮することはありません。ただ、伝え方を相手に合わせてみるということです。上司には、その手間をかけることが、昨今の新入社員の育成につながるという覚悟が必要です。

株式会社アイアンドオン 代表取締役 伊藤宏之

コロナ禍で入社した新入社員の様子から見えてきた研修のあり方                               

2020年10月28日

今年の新入社員が入社をしてから半年が経ちました。コロナ禍で例年通りに新入社員研修を実施できた企業はほとんどなかったと思います。そんな中、配属後の新入社員の様子にどんな変化があったのか、企業の人事の方に話をお聞きすると、大きな変化はなかったようです。十分な研修ができなかった中で職場適応ができるのか心配されましたが、お聞きした範囲では、現時点ではほとんど問題はないようです。配属先の上司の方々にも、今年の新入社員は十分な研修が受けられていないという認識があって対応されたようです。
ただ、eラーニングを取り入れたり、集合研修をオンライン化したり、感染防止対策を施して制限のある集合研修を実施したり、各企業は様々な工夫をして研修を実施されたと思います。その結果として問題がなかったのであれば、今回の経験は、改めて効果的な新入社員研修のあり方を再考するいい機会かと思います。

再考のポイントは、「オンラインでできることは何か?」と言った方法論ではなく、そもそも「入社時に必要なことは何か?」という本質的な問いが大切であると思います。

これまでに弊社が実施してきた新入社員研修の内容は、以下の通り一般的なものです。

学生から社会人(組織人)へ意識・態度を切り替える

ビジネスマナーを身に付ける

組織と仕事の進め方を理解する

ビジネスコミュニケーションスキルを身に付ける

職場の人間関係への不安を解消する

ただし、その目的は、

「社会人としての基本を身に付ける」と言うより、

「上司・先輩に好感を持たれるための基本を身に付ける」ことにあります。

配属後に新入社員のやる気を出させるのも失わさせるのも、上司や先輩との関わり方次第だからです。ですから、まずは好感を持たれることが大切であると考えています。

仕事をする上で必要な知識・スキルについては、配属後にある程度仕事のことがわかってきてから順次教育をしていくのが効果的であると思います。

さて、「入社時に必要なこと」については、企業によって違いがあると思いますが、弊社がこの数年で研修を通じて接してきた新入社員に共通している以下の不安に答えてあげることがその一つだと思います。

不安①:仕事についていけるのか?

    能力の問題だけでなく、ツライ仕事を任せられた場合など

不安②:運悪くダメ上司・先輩に当たってしまったら?

    理想の上司・先輩ばかりでないことはわかっている

    パワハラについても知っている

不安③:仕事を通じてどんな社会貢献ができるのか?

    この意識はかなり強い

答えると言っても、上から目線で一方的に話をしても響きません。新入社員同士の意見交換の中から気づきを与えることが大切です。

VUCAの時代、ビジネス環境はどんどん変化する中、昨今の若者分析でも様々なことが言われていますが、仕事の原理原則はそんなに変わってはいないと思います。その原理原則を新入社員は体感していません。ですから、そのことを入社時に、さらにはフォローアップ時に伝えていくことが改めて必要かと思います。新入社員の早期育成を望むのであればなおさらです。肝心なのは、その伝え方です。前述した通り、上から目線で一方的に話をしても響きません。新入社員同士の意見交換の中から気づきを与えることが大切です。その具体的な方法については、また別の機会に述べたいと思います。

株式会社アイアンドオン 代表取締役 伊藤宏之

管理職研修に求められる「判断力向上」                                    

2016年1月28日

管理職研修では、マネジメントの原理原則やリーダーシップの発揮、
部下指導育成方法等が盛り込まれることが一般的です。
もちろんこれらは重要なことですが、「不確実性」「不透明性」「変化スピードが速い」
この現代にあって、顧客の要望は「個別化」「高度化」「複雑化」「スピード化」しており、管理職に求められる最も重要な能力が「的確な判断力」になっていると考えられます。

前例や経験で的確に物事を判断できた時代は、
経験知の多い管理職が判断力のある管理職でいられました。
しかし、現代は、正しい事実認識とぶれない判断の基軸を持ち、
部下に的確な質問をして現場に潜む問題を聞き出し、
論理的に問題解決のできる管理職こそが判断力のある管理職となる時代です。

したがって、弊社がご依頼をいただく管理職研修では、
「判断力向上」のためのセッションにかなりの時間を費やします。
本来であれば、「的確な判断力」を持った人材を管理職に昇進させていると
考えたいところですが、なかなかそうではないのが現状のようです。

例えば、ある会社では、「判断をしない管理職」によって、
業務の遅延や停滞に陥っている実態が浮き彫りになりました。
また、「間違った判断をする管理職」によって、損失の拡大に陥ったケースもありました。
さらには、「なんでも上司にお伺いを立てる管理職」によって、
業務遂行に通常の何倍もの時間がかかっていました。
いずれの場合も、的確な判断ができないことに起因するわけですから、
管理職の判断力向上については、研修などで取り組むことが必要です。


では、どんな研修をすると、管理職の判断力を向上させることができるのでしょうか。
弊社の研修では、個人演習と全体討議を組み合わせた方式を取り入れています。
まず、判断を要する題材を複数記載したシートを参加者に配布し、制限時間を決めて、
各題材についてのご自分の判断を記述していただきます。

次に、題材一つひとつごとに、各人の判断を順番に全員に発表していただきます。
そうすると、どんな判断をどれだけの人がしたのかがわかります。
複数の判断が出た場合は、それぞれの判断について、その理由を話していただきます。
時には考え方の違いがあって、議論になる場合もあります。
そうすることによって、判断の背景にある「判断の軸」や論理的な考え方を
全員で共有することができるのです。
参加者の人数によっては時間がかかる方式ですが、参加者の納得度は高く、
気づきと学びを得ていただいているようです。

大切なことは、研修によって、的確な「判断の軸」を持っていただくことです。

 

株式会社アイアンドオン 代表取締役 伊藤宏之

能力開発の本質

2015年10月8日

社員の能力開発への取り組みは、社員と企業の成長に不可欠なことです。

OJTや自己啓発に頼るだけの企業もありますが、
多くの企業では何らかのかたちで社員研修を実施しています。
この社員研修の目的は企業の経営課題によって様々ですが、
「ねらい」は社員の意識変革→態度変容→行動変容を促すか、
または社員の知識・スキル習得によって思考・行動変容を促すかに大別されます。

前者をねらいとする場合はグループ討議やロールプレイング主体の研修が多く、
後者の場合は講義や個人ワークが多くなります。

ねらいに合わせた研修スタイルがとられているわけですが、
能力開発の本質から、このことをもう少し掘り下げてみたいと思います。


意識変革→態度変容→行動変容を促す場合、大切なのは参加者自身の「気づき」です。

この「気づき」はどのように得られるかと言うと、研修中に受けた情報について
①本人の経験、知識との対比
②他者の話との対比
のどちらかまたは両方をすることによって得られます。

①については「振り返り」または「内省」によって、
②については、他の参加者または講師との会話によってなされます。

ただ、研修では、①の場合でもグループ交流の機会があって
他者と話をする機会がある(つくる)と言うことです。


つまり、重要なことは、「気づき」は、
他者からの影響を受けて生まれるように研修では仕組まれているのです。
なぜかと言うと、振り返りや内省だけでは「正しい気づき」ができない場合があるからです。

意識変革→態度変容→行動変容を促す場合、
自己流の間違いを正すのが研修における能力開発の本質と言えます。

知識・スキル習得によって思考・行動変容を促す場合、
大切なのは身に付いた知識・スキルを実践の場で活かすことができるかどうかです。
実践の場で活かすには、得られた知識・スキルと実践での業務を紐づけることが必要です。

したがって、講師には、そこまで参加者の業務に精通していることが求められます。
場合によっては、参加者同士で紐づけ方についての話し合いの場を設けてもいいでしょう。

知識・スキル習得によって思考・行動変容を促す場合、
業務の品質・生産性向上に結びつく知識・スキルを習得することが
研修における能力開発の本質と言えます。

社員研修を企画・実施される方々に、
社員の能力開発に直結する成果を生んでいただくためのヒントになれば幸いです。


株式会社アイアンドオン 代表取締役 伊藤宏之